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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)480号 判決

控訴人 金子均

右訴訟代理人弁護士 横川紀良

被控訴人 拓新商工株式会社

主文

原判決を取り消す。

前橋地方裁判所昭和四六年(手ワ)第四九号約束手形金請求事件につき同裁判所が同年一一月八日言渡した手形判決を認可する。

訴訟費用は第一審(異議申立後の)および第二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、左記のほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴代理人の陳述)

本件約束手形は、訴外長谷川勝也が白地式裏書により訴外出野博に譲渡し、これを控訴人が出野から昭和四六年四月一三日譲り受けたうえ同年五月二五日訴外前橋信用金庫北支店に譲渡したものである。

(証拠関係)〈省略〉

理由

被控訴会社が金額五〇万円、満期昭和四六年八月三一日、支払地前橋市、支払場所株式会社群馬銀行前橋中央支店、振出地前橋市天川大島町愛宕前一二〇、振出日昭和四六年四月一二日、受取人長谷川建設株式会社なる約束手形一通(以下本件手形という)を振出したこと、本件手形の裏書欄には長谷川建設株式会社から長谷川進兵に、長谷川進兵から長谷川勝也に、順次裏書の記載がなされていることは当事者間に争がなく、控訴人が本件手形を現に所持していることは甲第一号証の一ないし四の存在によって明らかである。

〈証拠〉を総合すれば、訴外長谷川勝也は昭和四六年四月一三日本件手形を白地式裏書(第三裏書欄)により訴外出野博に譲渡し、出野は同日これを控訴人に交付して譲渡したこと、控訴人は同年五月二五日訴外前橋信用金庫北支店に取立委任の目的で本件手形を交付譲渡し、同訴外人が満期に本件手形を支払のため支払場所に呈示したが支払を拒絶されたので、控訴人は同訴外人から本件手形の返還を受け第三裏書欄の被裏書人として自己の氏名を記入し被裏書人の補充をなしたこと、以上の事実を認めるに足り、原審証人出野博の証言、原審における被控訴会社代表者高屋悦洋本人尋問の結果中右認定の趣旨に反する部分はいずれも前記採用の各証拠に照らし措信しがたく、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

被控訴人は本件手形は被控訴会社と訴外長谷川建設株式会社間の工事請負契約に関しその代金支払のため振出されたものであるが、右訴外会社は工事に着工しないままに終ったので、右請負代金債務は結局発生しなかった旨、長谷川進兵は訴外会社の代表取締役であり、長谷川勝也は専務取締役で右工事の担当者であった旨、および控訴人は右のとおり被控訴会社が本件手形の支払義務を負わないことを知りながら満期後に本件手形を長谷川勝也から裏書取得したものである旨を主張する。なるほど、当審証人長谷川勝也の証言、原審における被控訴会社代表者高屋悦洋本人尋問の結果によれば、本件手形は被控訴会社が訴外長谷川建設株式会社に請負わせた土木工事の代金支払のため振出したものであるが、右訴外会社は工事に着工したもののこれを完成しないうち昭和四六年五月頃倒産し工事を中止するに至ったことが認められる。しかし、控訴人が本件手形を当初取得したのは前示認定のとおり昭和四六年四月一三日のことであって、当時はいまだ長谷川建設株式会社による工事中止の事態は発生しておらず、従って控訴人が右事態を知る由もなかったことが本件証拠上明らかである。なお、控訴人が、右のごとく本件手形を当初取得した際に長谷川建設株式会社による工事中止の事態を知らなかったものである以上、前示前橋信用金庫北支店からの満期後の再取得の際には右工事中止の事態を仮りに知っていたとしても、被控訴会社は控訴人に対し悪意の抗弁をもって対抗することはできないものというべきである。よって、被控訴人の抗弁は理由がないことに帰着する。

そうすると、被控訴会社は控訴人に対し本件手形金五〇万円およびこれに対する昭和四六年八月三一日から支払ずみまで手形法所定の年六分の割合による利息金を支払うべき義務あることが明らかであるから、被控訴会社に対し右債務の履行を求める控訴人の本訴請求は正当として認容すべきである。

右と結論を異にし控訴人と被控訴人間の手形判決(前橋地方裁判所昭和四六年(手ワ)第四九号)を取り消したうえ控訴人の本訴請求を棄却した原判決は失当であり、その取消と右手形判決の認可を求める控訴人の本件控訴は理由があるので民事訴訟法第三八六条に従い原判決を取り消し右手形判決を認可することとし、第一審(異議申立後の)および第二審の訴訟費用の負担につき同法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩野徹 裁判官 中島一郎 桜井敏雄)

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